『幕末・維新 シリーズ日本近現代史①』(井上勝生)感想

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

Interestingな本。民意に支えられた明治維新みたいな幻想を軽々と打ち砕いてくれた。保守的で無知蒙昧、弱腰な幕府と、開明的で知識獲得に貪欲で対外政策もバッチリな薩長、という単純な構図を否定しえている点に本書の価値がある。
しかし、この本が近代を否定する考えに立って書かれている点も見逃してはならない。「昔は良かった」の“昔”が、明治期から江戸期に移行して書かれているだけともとれる。一貫して明治の中核にいる人間(と孝明天皇)を悪し様に、江戸幕府側を評価して書かれていることから、ある程度、逆のことを指し示すものは無視されている公算が高い。
江戸末期における江戸幕府の再評価を果たしている点が優れているが、この本を読む前にまずはスタンダードな入門書を一冊読んでおくべき。

★★★★★