レポート「日本アニメは輸出産業足りうるか」


この記事をそのまま、あるいは多少の加筆をもってレポート等としてどこぞに提出することは、著作権云々というより仁義にもとるのでやめて頂きたい。
まあそんな価値無いかもしれんが。

はじめに

近年、コンテンツ産業への注目が高まっており、政府による支援策の増加や、教育機関でのコンテンツ系学部学科の開設が後を絶たない。そこで本レポートでは、コンテンツ系の中でも政府の期待度が高い(と思われる)映画、特にアニメを取り上げる。
また、既に2006年に入っているが、統計の関係上、2004年の資料に基づいてレポートを作成した。

なぜアニメか

まず何故アニメを取り上げるのか。“売れた”映画、総製作数、入場者数をもとに見ていこう。まず、日本映画製作者連盟の発表した、2004年の興行収入10億円以上の番組を見てみよう。計20番組のうち、16位にランクインしている「ゴジラ」と「ハム太郎」の同時上映(かは判らないが、以下の二分法の例外であることは明らかであろう)を除くと、実写10作品、アニメ9作品となる。売り上げで言えば368.4億円となる。2004年の邦画の総興行収入が790.54億円であるから、これだけで半分近い約47%を占める計算になる。[日本映画制作者連盟2004]
総制作数でも比較しよう。経済産業省の発表によれば、劇場用映画に占める劇映画の割合は4割ほど、逆にアニメは6割弱を占める。
またプリント本数でいうと、前者は2割にも満たないが、後者はほぼ100%と言っていい。ただし、総プリント本数に占めるアニメの割合は1割でしかないことも注意しておきたい。[経済産業省2005]
映画館の入場者数で比較すると、邦画28.2%、アニメが18.8%、であり、こちらは邦画が勝っている。ただし、洋画の圧倒的優位は不変である。[日本貿易振興機構2005]
3つの統計をみるに、日本アニメと邦画とは国内においてほぼ拮抗した勢力であるということがわかる。海外での普及を併せて考えれば、アニメに注目が集まるのはむしろ当然と言える。

日本アニメ業界の現状

邦画に十分対抗しているアニメーション業界であるが、制作側の現状は厳しいものがある。まず、制作会社の現状を、少し長くなるが、『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』より引用する。


アニメーターの平均労働時間は一日十二時間、週に五〇〜七〇時間と言われています。しかも新人の担当する動画は一枚一〇〇円〜二〇〇円で、月収にすると五〜一〇万円にしかならない。(中略)生活保護をもらってアニメーションを制作している人もいる。
[大塚・大澤2005,246頁]
確かに「アニメーターが食っていけないという情報が広がりすぎ、強調されすぎている」[P.A.WORKS 2005]との反論もある。しかし、ProductionI.Gの石川社長がJASDAQ上場トップインタビューで上場の目的のひとつとして挙げたのはまさにアニメーターの待遇改善であり、課題であるといえよう。[石川2005]
また、「テレビアニメのほとんどの作品が赤字」であり、「コンテンツの二次利用で収益確保」している[日本貿易振興機構2005]ことを日本貿易振興機構は問題としている。これは原作権を持つ、あるいは持とうとしている制作会社にとっては収益源、もしくは織り込み済みのことではあるが、文字通り下請けの零細制作会社にとっては死活問題であろう。
さらには、アニメーション業界も近年は海外依存が強まっている。例えば、ProductionI.GがCartoonNetworkと共同制作している「IGPX」のクレジットには中国企業であろう名が存在する[IGPX製作委員会 2005-2006]し、また最も有名であろうジブリも例外ではなく、『千と千尋の神隠し』のCGアニメーションを韓国に外注している。[大塚・大澤2005]
 上記の問題よりも『ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』で問題にされているのは、流通の問題である。アメリカで、アメリカ以外の映画が売れないのは、米国企業が配給を一手に握っているからで、アジアもそうなりつつある。しかもそれは国家ぐるみで行われている。アメリカの政策のため、経済産業省は報告の中で配給の問題を取り上げつつもそれについての言及を避けるなど弱腰であり、アメリカと摩擦を起こしたくないという本音が露骨にみえる。政府に本気でアニメを産業にしようという気は無いのだ。
また、制作会社も政府にまったく頼らず独自に道を切り開いているようだ。ジブリはディズニーと組んでいる[スタジオジブリ2005]し、ProductionI.Gも複数の米国の大手流通企業と契約を結んでアニメを制作している。[石川2005]
現状を総括してみると、近年のアニメへの注目は、実態を知らない政府等の主導であり、業界内ではむしろ危機感がある。

産業として

アニメーションは、政府の期待するような輸出産業に成長するのだろうか。答えはNOであると思われる。2005年5月期のProductionI.Gの売上高は約56億円[ProductionI.G 2005]であるが、代表的な輸出産業である自動車分野では、例えば日産自動車は2005年3月期、8兆円を越える売上高を誇っているのである。[NIKKEI NET 2005] アジア市場が成長したとしても、国を代表するような産業には到底なりえないであろう。

最後に

『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』では、日本のアニメは敗れるべくして敗れると結論付けている。この意味を、コンテンツバブルに湧く大学も考えるべきだと思う。

参考資料


大塚英志大澤信亮 2005『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』角川書店
日本映画制作者連盟 2005「2004年(平成16年)全国映画概況」
http://www.eiren.org/toukei/index.html
日本貿易振興機構 2005「日本のアニメーション産業の動向」
http://www.jetro.go.jp/jpn/reports/05000977
経済産業省 2005「平成16年特定サービス産業実態調査」
http://www.meti.go.jp/statistics/data/h2v2000j.html
石川光久 2005「JASDAQ上場トップインタビュー」
http://stage.arcstarmusic.com/jasdaq/JP3833770005/link.ram
P.A.WORKS 2005「会社説明Q&A」http://www.pa-works.jp/q-a/index2.html
IGPX製作委員会 2005-2006「IGPX」(アニメーション)
スタジオジブリ 2005「スタジオジブリの歴史」
http://www.ghibli.jp/30profile/000152.html#more
ProductionI.G 2005 http://www.production-ig.co.jp/company/ir/highlight.html
NIKKEI NET http://www.nikkei.co.jp/